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緒形拳、逝く

いつものように忙しい朝、あれこれ支度をしているときにその報に触れた。
「ええっ!」
思わずテレビに向かって大声。
「緒形拳 急逝」というスポーツ新聞1面の大見出しが、画面に映し出されてた。
有名人の訃報は、テレビのこっちにいる私たちにはもちろんいつも突然だ。

最初に彼を見たのは、映画『優駿』。
宮本輝の名作を原作としたこの映画は、小学校低学年のころに、
私が初めて見た「大人の」映画だった。
北海道の小さな牧場主の役。
だから大学生になって原作の小説を読んだときも、
あのお父さんのセリフや動作は、すべて緒形さんのイメージで読んでた。

それから、大河ドラマ『毛利元就』。
私は高校生だった。
主人公・元就の最大の敵、尼子経久という役どころ。
戦国マニアぐらいしか知らない人物だったけど、
尼子といえば緒形、ってくらいに、鮮やかな印象を残した。

黒を基調、赤をアクセントとしてあしらった衣裳をまとって、
中国地方に覇をとなえ、
決して暴れたりしないけど、静かな中に激しさを秘めて。
「謀りごと多きは勝ち、少なきは負ける。乱世の習いだ。」
そんなセリフもすごい説得力をもつ、惚れ惚れするほど凄みのある尼子だった。

そして、何といっても記憶に新しいのが去年の大河『風林火山』。
出番は、千葉真一が演じる板垣信方の戦死後、後半だけだったけど、
狂気の長尾景虎(Gackt)に仕える越後の懐刀・宇佐美定満を、
水分を限界まで削ぎ落とした枯れた風情、それでいて若き後の上杉謙信を包み込み、
同時に宿敵・武田を追い込む底知れなさを備えて、
文句なくかっこよく演じてた。

「風林火山」という、視聴率でいえば今年の「篤姫」の足元にも及ばない大河ドラマを、
ものすごくかってくれていて、
山本勘助と由布姫の雪の山小屋のシーンを「今世紀最高のラブシーン」と称し、
世間的にはどうしても胡散臭いガクトと心を通じ合って、
「うちのお屋形さまは、なかなかかっこいい。ついていきたくなる。」と言って、
この世紀の名優が宇佐美さんを演じてくれたのは、
風林火山ファンにとっては、手を合わせたくなるくらいにうれしいことだった。
飾り気のないブログも、読んでました。

今夜も遅い帰宅だったが、ハードディスクに残っていた宇佐美を、
緒形さんを偲んでしばらく見ました。

私は、「楢山伏孝」も「鬼畜」も知らない、「太閤記」や「峠の群像」にも間に合ってない。
なのに、ところどころに伝わってくるネットのニュースを読んで、
今日一日、ずっと涙が出そうだったのはなんでだろ?

民放のドラマよりもずっと長いスパンで続く大河で、
3作品(『太平記』も見てました)も見たせいか。
私にとってはまだ全然過去じゃない「風林火山」で、
円熟した役者の演技というものを、リアルタイムで堪能していたせいかな。
津川雅彦が語るご臨終の様子も、あまりにもかっこよすぎたせいか?

何だか、とても書ききれない思い。
まだとても信じられない気持ちだけど、
心から、ご冥福をお祈りします。
by emit9024 | 2008-10-07 23:18


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