十年後の椎名林檎

何日か前にDVDに録画しておいた「トップランナー」を見た。
ゲストは椎名林檎。

椎名林檎はわたくしと同い年で、しかも福岡出身。
メジャーデビューしたときからその音楽が好きだった身としては、何とも感無量な放送となりました。

私が最初に聞いた曲はきっと10年も前くらいの「歌舞伎町の女王」だったんだけど、その詩の文学的な世界観たるや衝撃でした。

「蝉の声を聴くたびに目に浮かぶ九十九里浜 
 皺々の祖母の手を離れ足を踏み入れたは歓楽街
 ママは此処の女王様 生き写しのような私
 誰しもが 手を伸べて 子どもながらに魅せられた歓楽街
 十五になったあたしを置いて女王は消えた
 毎週金曜日に来てた男と暮らすのだろう」

当時、近田春夫も「週刊文春」の連載で興奮気味に絶賛していたのをはっきり覚えてる。
(考えれば、その連載って確か今でも続いてるんやない? それもまた凄いな)

で、その後はみなさんご存知のとおり、あの独特の巻き舌と文語調の詞と、
「本能」の看護婦姿やら、「罪と罰」でベンツ破壊するやらのビデオクリップで、
一躍、エキセントリックな人として認識され、
その後、突如、音楽活動を休止して結婚・出産・離婚、
「カルキ ザーメン 栗の花」なんてまた挑発的なアルバムを作ってみたり、
「唄ひ手冥利」で洋の東西を問わないカバーアルバムを発表したり、
「東京事変」なる不穏な名前のバンドを組んでみたり、
蜷川の娘の処女映画「さくらん」で華麗なる花魁絵巻のサウンドトラックを担ってみたりと、
まぁ一貫してるのか何なのか?という10年間だったわけだけど。

この「トップランナー」に出てきた彼女は、とっても普通の三十路前女子だった。
普通、っていうのはすこぶるいい意味で、言い換えれば、
「社会人として成熟し、それだけでなく、自分の哲学を守り進化し続けてる」人だって感じ。

なんせ、スタジオ観覧に来てたお客さんに
「いま一番、大事にしたい言葉は?」と聞かれて、
「うーん、『実直』かな。」ですよ。
実直! なんてまっとうな。

でも、きっとこれが、今の彼女の正直な言葉だと思った。

年末年始にやってたイチローのインタビュー番組でも思ったんだけど、
やっぱりこういうとき、NHKの凄みっていうか誇りっていうか、そういうのを感じるね。
民放の、いかにも編集しました、脚本あります、って感じのあざとさが皆無。
聞き手もまさに実直で、変に笑わせたり、細かいとこを拾って大げさに演出したりしない。
だから、椎名林檎に興味が無かったり、
わかりやすく、単純に面白く作られたものしか見慣れてない人には、
むしろ何か退屈に見えるのかもしんない。

でも、何かを成し遂げてきた人、心に何かを持っている人の思いをまっすぐに伝えるのって、
こういう作りの番組だと思うんだ。
面白おかしく編集したりしない。過剰なテロップつけたりもしない。
喋りのプロではない人、でもその喋りにすべて「実のある人」の言葉を、
それこそ、ただ「実直」に伝える。

あんなに過激な演出を施してきた椎名林檎が、
こうも「素」の状態で出てきて、自分の言葉で喋るってこと。
その喋りの中身は、至極まっとうで、同時に、とてつもなく賢い。

そうかー、この人は、世に出て10年経って、
一般人には想像もつかないような世界に晒されながら、
でも、こういうところに辿り着いたんだな。
だからきっとこれからも、マーケットにも潰されたりしないし、
安っぽい音楽でお茶を濁したりしない。
彼女は「音楽ビジネス」の露出する存在として成功する必要性もじゅうぶん認識しているようだったけど、
たとえばこれから、いわゆる世間一般の思う「第一線」を退いても、
まさかなスキャンダルで身を持ち崩したりはせず、
自分ってもんを守り続けて生きていくんだろうな。
って、思った。
すばらしい!

番組内で披露された3曲も素晴らしかった。
アレンジも、演奏人も、林檎さんの唄いも。
もともと、ライブパフォーマーではないと思うので、確かに声は細いけど。
すごく意志を感じた。
自分のことをちゃんとプロデュースできる人だ。いつでもそうだったし、これからもずっとそうだ。

あー、感銘を受けた。
10年経って、こんな椎名林檎を見られるなんて、ほんと、年をとるのも悪くない。
自分の小さな仕事で悶々としてるのが、こういうのを見ると、昇華されるよ。
一視聴者は、こういうことで、気持ちを新たに明日に向かうのですわ、、、。

なんて、22時過ぎに帰宅して興奮してるわたくしを尻目に、
私の帰宅前に肉じゃがやら胡瓜の浅漬けやらつくり、
洗濯物を干して、卵焼きを作り、今、自分のワイシャツにアイロンをかけてる夫に、
まずは衷心から感謝しなければなるまい、、、。
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by emit9024 | 2008-07-16 23:38


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