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母、おおいに感動す

帰宅して気づいた。19時前、携帯電話に母親からの着信履歴があった。
母とは特段の用事がなくても、1週間に1,2回は電話で話している。基本は土日で、余裕があるときは平日も話すが、共働き夫婦の夜は忙しかろう、と(主に夫に)遠慮して、平日夜に母のほうから電話がかかってくることはあまりない。

何かあったのかな、と一抹の不安を覚えながらコールバックすると、
「あ、エミさーん? 今日ね、見に行ってきたよ、『おくりびと』!!」
と元気そのものの声が。相変わらずミーハーな様子、うれしいよ・・・。

65歳の母は、シルバー割引なる特典によりいつでもどこでも1,000円ぽっきりで映画を見られるらしく、私なんかよりよっぽど、普段から上映中の作品チェックに余念がない。『おくりびと』のことは本上映期間から目をつけていたらしいが見に行くタイミングがなく、日本アカデミー賞を総ナメにしたので日曜日の私との電話でも話題に上がっていたのだが、週明け、本場(?)のアカデミー賞までも受賞してニュースでも盛んに取り上げられたのに触発されて、近く(といっても徒歩1時間くらいはかかる)の大型ショッピングセンター内にあるシネコンで再上映されているのを目ざとく発見し、さっそく鑑賞したとのこと。ちなみに私は未見だ。

「もうねー、すっごく良かったよー。納棺師さんの話とはいっても、聞いてたとおり、笑いもたくさんあってねー。始まってそうそう、ププッて笑っちゃった。あ、来月にはもうDVDになるらしいけん、アンタも見るやろ? あんまりペラペラ喋ったらいかんね。でね、モックンの、あの仕事の作法?もうすっごく上手やったよ、やっぱり。たいしたもんやねー」

「山崎努も良かったんやない?」

「そりゃもう、あの人はもう大ベテランやもん、そりゃ良かったよ。さすがやね。何しても上手いもんね。あと、『天地人』で秀吉やりよう人おるやろ? あの人も出とった。あの人がまた上手いもんね~。あ、余貴美子だっけ?あの人も良かった」

「あの人も、日本アカデミー賞で最優秀助演女優賞とったげなさ」

「ああー、そうやろう、そうやろう。うンまいもんねー、あの人。そいとね、あの人も出とった。岸田今日子さんと3人で仲のいいおばちゃん連中おるやろ? ほら・・・」

「冨士真奈美? 吉行和子?」

「そ、そ、吉行和子よ。あの人も出とった。弁当屋のおばちゃん役でね。ね、けっこう、そうそうたるメンバーやろ? でもやっぱりモックン良かったねー、あの、きれ~な納棺師のしぐさがね。あんなにきれいに送られたら良かねーって思った」

「山形やったっけ、舞台。映像、綺麗らしいね」

「そ、そ、雪のシーンとかあってねー。やっぱりあの辺はまだ、お葬式でもあげんなふうに、ちゃーんと、きちーんと、しよんしゃぁっちゃろうね。あ、でも、ヒロスエさんはイマイチ、、、」

「あ、そうなん? あの人だけ(日本アカデミー賞で)賞とれんかったもんね、かわいそうに」

「優しーい奥さん役で、途中まで良かったんやけどねー。うーん、お母さんとしては、最後、あらーって感じやったわ。ま、あれはヒロスエさんが悪いんやなくて、脚本っていうとかいな? そのせいで、良う見えんかったんやろうね。あっ、あんまり詳しく言うと悪いけん、言わんね。まぁ、見たらアンタにもわかろうけん」

「ははは、そうねー。」

「もうほんとねー、全然、暗くないとよ(註:母は暗い映画が嫌い)。笑えるとこがいっぱいあるとよ。んふふっ。いま思い出しても笑えてくるわ。あ、エミにはナイショにしとかないかんよね。でもねー、泣けるとこもあると。お母さん、最後ぼろぼろ泣いたわー。終わってからトイレで鏡見たら、顔がおサルさんみたいに真っ赤になっとった」

ぷっ。
興奮冷めやらぬ様子の母であった。

娘(私のお姉ちゃんね)と一緒に行ったのかと思いきや、「ん?一人で行ったさぁ」と飄々としている。
なんせ再上映なので、1日2回しかやってないらしく、姉からは遅い夕方からの回に誘われていたが、父親の夕食のしたくなどあるので母は夕方は都合が悪く、しかし姉は仕事の関係で午前中の回には行けないのだった。

かといって、ひとりでもくもくと出向いて見て帰ってくるわけではなく、そのショッピングセンターの和菓子売り場(?)で働くおばちゃんや、行き帰り(繰り返すが片道徒歩1時間くらいかかる)の花屋さんやらスーパーやらで顔なじみのおばちゃん、おばあちゃんたちと、かまびすしいお喋りを繰り返しながらの道のりだったらしい、いつものごとく。ええ、そのお喋りの内容についても、いろいろと聞かされました・・・。

それでも、やっぱり、感動(なのか・・・?)については、いち早く、娘に話したいんだろうねー。
なんかちょっと、きゅんとくる。

今でこそ、こうして母との電話も楽しく、他愛ない会話をできることがほんとにかけがえないな、って思うけど、10代の後半あたりでは、私、今思うとほんとに長い反抗期の中にいたよな・・・。

と、しみじみしたのは、最近読んだ日記エッセイ『第3の人生の始まり つれづれノート⑮』(銀色夏生 角川文庫)のせい。

筆者の娘、高校生になったカンちゃんが、反抗期(?)の只中にあり、小さな会話をかわすだけでも母娘お互い、どんだけストレスがたまるか、ってことを、これでもかって書いてある。そりゃもう、「こんなに微に入り細に入り書いてだいじょうぶなの?」てぐらいに。
とはいえ、15巻と銘打たれているとおり、15年以上にわたって書き続けられているもので、読者のほとんどは、私のようにカンちゃんが生まれる前からこのエッセイを読んでいるから、そこまでの違和感はないんだけどね。

読んでて、あー、あたしもこうだったんだろうなー、って思った。会話にならないぐらい、ギスギスすることがたくさんあったあのころ。親と私とは違う人間で、違う価値観や生活スタイルを持ってんだよ!ていう主張にとらわれてたから、母のひとつひとつの言葉や、大人として親として正論極まりないお説教も、いらいらしてしかたがなかった。お互いの言い分は永遠の平行線。

まあ、多くの子どもが通る道なので、親の宿命と言ってしまえばそうだけど、お母さん、よくぞ耐えてくれました・・・。ま、耐えるっていうか、普通にケンカしてたけどさ。そのころの親の痛みにも、今なら思いを馳せられるってもんです。

そんなわけで、母をこんなにも感激させてくれた『おくりびと』関係者には、感謝の念でいっぱいだ。DVDになったら、私ももちろん見ようと思います。あと、今日は夫が飲み会だったので、走りました。
by emit9024 | 2009-02-24 22:30


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